2011/04/26

Rattigan原作の映画、"The Winslow Boy" (1999)

私の夢の中のイギリス人達
映画版"The Winslow Boy" (1999)

鑑賞した日:2011.4.25
映画館:NFT2, British Film Institute (BFI)

監督:David Mamet
シナリオ:David Mamet
原作:Terence Rattigan

出演:
Nigel Hawthorne (Arthur Winslow)
Rebecca Pidgeon (Catherine Winslow, Arthur's daughter)
Jeremy Northam (Sir Robert Morton, barrister)
Gemma Jones (Grace Winslow, Arthur's wife)
Guy Edwards (Ronnie Winslow, Arthur's second son)
Matthew Pidgeon (Dickie Winslow, Arthur's elder son)
Colin Stinton (Desmond Curry, family solicitor)
Aden Gillet (John Waterstone, Catherine's fiance)
Sarah Flind (Violet, maid of the Winslows)

☆☆☆☆☆/ 5(Rattiganへの私の偏愛に基づく評価)

Terence Rattigan生誕百年にちなみ、Rattigan作品の上演が相次いでいるが、既に書いたように、BFIではRattigan原作の映画の特集もやっていて、その中の1本。私は日本で"The Winslow Boy"を見た覚えがあるのだが、これを見たのではない気がしている。でもひどい健忘症なので、自信ない。

さて、この作品は実際に起こった事件にかなり基づいていると言われるが、それはさておき、劇と映画では第一次大戦開戦前夜の1911年に設定。引退した豊かな元銀行員のArthur Winslowの息子、Ronnieは海軍幼年学校(寄宿制)に入っているが、そこで他人の金を盗んだ疑いをかけられ、突然退学勧告を受ける。だがRonnieは自分はやっていないと頑固に主張、息子を信じたArthurと家族、特に成人した娘(30歳位)のCatherineは、Ronnieにかけられた疑いを晴らし、名誉を回復するために、法廷闘争に邁進する。しかしその為に一家は、マスコミの好奇の目にさらされ、多額の法廷費用がかかることから、長男のMatthewはオックスフォードでの学問を諦めて銀行に就職する。更にCatherineのフィアンセで軍人のJohn Waterstoneの父親は、Winslow家の援助(持参金)が難しくなったことで、結婚を許さないと言い、John自身もその父親に同調。彼女の結婚が難しくなる。そうした経済的な問題にも関わらず、Arthurは最も優秀という世評の敏腕法廷弁護士、Sir Robert Mortonに高価な費用を払って弁護を依頼。Mortonは大変困難な弁護を引き受け、彼自身もこの裁判の弁護を続ける為に大きな犠牲を払うが、最後にはWinslow側の勝訴に至り、一家の努力は報われる。最後の場面は、勝訴の喜びと共に、MortonとCatherineの間に芽生えたほのかな好意を感じさせるロマンチックな幕切れ。

私は原作を呼んだり見たりしていないので、映画と舞台の比較は出来ないが、見た感じでは、映画向きにややMortonとCatherineの美男美女に大きな焦点が当てられ、Nigel Hawthorneが霞んでいた気がするのが幾らか不満だった。しかし、全体として見ると、個人的には非常に楽しめた作品。Rattiganらしいところがたっぷり見られる。ArthurやCatherineの、悲しみを押し殺して努力する姿、大騒ぎせず、静かにフィアンセが自分を去っていくのを諦めるCatherine、法律家としての最高の職を棒に振っても弁護を全うするだけでなく、そのことを自分では誰にも言わないSir Morton、経済的には大変苦しくても20年働いてくれたメイドのVioletに暇を出さない決断をするArthur夫婦、弟の為にオックスフォード大学の卒業を不平も言わずに諦めるMatthew・・・、一家の人々が犠牲につぐ犠牲を払うだけでなく、それを大げさに騒いだり嘆いたりせず、胸の内にしまって裁判闘争を支え続ける様子が胸を打つ。国民性のひとつと言われるイギリス人の自己抑制が、美しく描かれているが、これこそRattiganの真骨頂でもある。

ただし、今のイギリスは多文化・多民族国家となり、階級の垣根も低くなり、こうしたEnglish Middle Classの伝統的な雰囲気を感じさせる人々はあまり居ないかもしれないし、アメリカ人に見られるような、開放的で、自己主張の強い人々が多くなったのではないかとも思える。それはそれで良い面も多く、時代の変化を映しているとは思う。ここに描かれているのは、かってのイギリスのミドル・クラスの、ある意味で理想像かも知れない。丁寧で礼儀正しい言葉使いや質素でもきちんとした服装も含め、私が大変好み、謂わば、夢にみるイギリス人達(でもまず滅多に出会わない人々)がここに描かれている。Catherineがsuffrage(女性参政権運動)の熱心な運動家であることも嬉しい。

故Nigel Hawthorneは蜷川の "King Lear"で主役をやったことで日本でも良く知られていると思うが、素晴らしい貫禄。彼の地味な姿が、如何にもイギリス人らしい、演劇界のスターである。Arthurの妻の役のGemma Jonesも重みがあった。Rebecca Pidgeonはこれまで私は見たことが無かったが、りりしい雰囲気が見ていて心地よい。David Mametの奥方でアメリカで主に活動しているが、育ちやドラマスクールは主にイギリス。しかももともとsinger-song-writerとしても有名な人らしい。Mametの"Oleanna"は彼女が主演で初演されたそうだ。Jeremy Northermは堂々とした、格好良いイギリス紳士らしい役がぴったりの俳優だ。ちょっと苦みを押しつぶしたような表情が良くて、私から見ると、こういうイギリス紳士の役ではColin Firthより素敵。不器用な求婚者で、事務弁護士を演じたColin Stintonも、格好は良くなくても、Jeremy Northamとは違う、イギリス紳士らしい地味な朴訥さが強く印象に残る。あえて器用な生き方をしない人々、いや器用に生きようと思っても生きられない愛すべき人々が魅力的に描かれた作品。Rattiganはやはりイギリスのチェーホフである。

VHSでは『5シリングの真実』 (2001)として日本語版がでたようであるが、DVDは今のところ輸入盤だけのようだ(?)。でもRattiganの好きな方は必見の作品!いつか舞台でも見てみたい。法廷ものの映画と思って見ると失望すると思う。かといって、ロマンチックな映画でもない。Rattigan独特の世界であり、イギリス演劇の映画化として見る作品だろう。

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