2013/06/11

シアター座とカーテン座の跡地にできる上演スペースと劇場


前項のグローブ座のところでThe Theater(以下、シアター座、としておきます)についても少し触れた。これはロンドンとその近郊における最初の演劇専用に作られた常設商業劇場と言われている(1576年開場と推定されている)。しかし、それより少し前に、宿屋(兼酒場)の中庭を利用した一種の劇場などがあったし、仮設舞台を使ったオープンエアの施設は中世からあったものと思われる。少なくとも、ロンドン以外の地方では、色々な形の舞台があった。

さて、そのシアター座であるが、ロンドンの旧市街で今の金融街であるシティーの北、今のロンドン全体から言うと北東部にあるショアディッチと呼ばれる地域にあった。地下鉄Northern Lineとナショナル・レイルのOld Street駅の東側付近である。このショアディッチには、シアター座以外にも、エリザベス朝ロンドンにおける主要劇場のひとつ、The Curtain(カーテン座)もあり、シアター座の目と鼻の先に建っていた。こちらはシアター座の翌年、1577年に開場し、1622年まで営業していた。この劇場は、シアター座を引き払った後の宮内大臣一座(The Lord Chamberlain's Men、シェイクスピアの劇団)が、グローブ座の完成までの2年間使った劇場でもある。『ヘンリー5世』のプロローグの有名な台詞、"This wooden O"(この木で出来たO)が指す劇場とは、カーテン座だと考えられている。またそこには今もCurtain Roadという通りの名前が残っている。このショアディッチあたりは、ロンドン市の行政範囲の外にあるliberty(リバティー)と呼ばれる地区で、その為に市の厳しい規制を逃れることが出来、劇場の興行が許可された。

シアター座とカーテン座があった場所について、今年の2月にガーディアン紙に私の興味を引く記事が出た。この記事に気づいたのは最近であるが。Matt Truemanという筆者によると、カーテン座の正確な跡地は昨年(2012)の大規模な発掘調査によって明らかになっており、また、シアター座の跡地で同様に発掘調査があったのは5年前(2008)とのことだ。ガーディアンのリンクをたどって、それぞれの年に書かれた記事も読んでみた。ロンドン博物館のスタッフが詳しく発掘調査し、昔の劇場の礎石や、土間の跡などを発見したらしい。

そのTruemanの2月の記事によると、シアター座の跡地は、ハックニー区の区議会(Hackney council)に提出された計画案では、250席のオープンエアの上演スペース、及びそれに付置される博物館のような建物が作られ、その博物館では、昔の劇場の跡が見られるように工夫されると言う事だ。この上演スペースは、特定の劇団などが本拠地とするのではなく、音楽など演劇以外の演目も含めて、色々な出し物を提供する計画とのこと。

一方、その近くにあるカーテン座の跡地には、なんと6階建ての劇場が建つ計画だそうで、その建物には、235席のオーディトリアムが入るらしい。6階もあるということは、商店やオフィスなど色々なテナントが入るんだろう。名前はThe Stage。更にそばには、大規模高層マンションも建つらしい。最寄りのシアター座跡地の開発と合わせて、この地域をバービカン・センターみたいな街にしようというのだろうか。ロンドン・グローブ座とプログラムについて交渉をしているらしい。建物については、この記事が詳しい。建築後の予想図をみると、大変大きなビルを建てるようだから、古い街の雰囲気が壊れそうで残念な気もするが・・・。

以下はデイリー・メール紙の6月6日の記事から拝借したカーテン座発掘の様子と、カーテン座の位置:



ロンドンは途方もなく劇場の多い都市である*。更に最近では、ビクトリア駅近くにSt James Theatreという新劇場も出来て、意欲的なプログラムを組んでいるようだ。ガーディアンの演劇批評家Lyn Gardnerはこれ以上劇場が必要なのか、と疑問を呈している。しかし、又劇場が出来ると聞くと、やはり気にはなる。こうした施設を計画している人は、今まであまり陽の当たらなかった東ロンドンの地区へ、ふたつの演劇スペースの設立をきっかけにして商業的な成功を導こうとしているのだろう。しかし、不況と公的支出の縮小が続くイギリスで、新たな小規模劇場が客を集められるのか、運営は難しそうだ。いずれにしても、シアター座とカーテン座の跡地のあたりを一度散歩して、もし跡地が見られるようになっていたら、のぞいてみたいが、今頃は塀で囲まれて工事を始めているところでしょうかね。

* Lyn Gardnerの上記の演劇ブログによると、ロンドン劇場協会(The Society of London Theatres)に属している大きめの劇場だけで52館、アート・カウンシルによると、ロンドン中心部にあるフリンジも含めた大小の劇場は、すくなくとも115館とのことである。近郊(例えばリッチモンドとかキングストンなどにも重要な劇場がある)も含めるとその数はずっとふくれあがるだろう。

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